• アクセス
  • Q&A
  • リンク集

リハビリ室コラム/Rehabilitation Column

第7回 日本スポーツ理学療法学会学術大会 参加記
横浜市スポーツ医科学センター リハビリテーション科 田中 大夢(理学療法士)
(令和3年1月24日)

「第7回 日本スポーツ理学療法学会学術大会」が2021年1月24日にオンラインにて開催されました。今学術大会のテーマは「超原状回復を目指して」でした。スポーツ復帰のためのスポーツ理学療法の中で、再発・再受傷予防のために元の身体機能や運動能力を超えた回復を目指すという意味が込められています。

新型コロナウイルス感染症の拡大が2020年始めより起こり、東京オリンピック・パラリンピックをはじめとして、スポーツ界では国際大会・国内大会の多くが中止・延期になりました。そのような事態を受け、本学術大会もオンラインでの実施となりました。そのため、会場にて活気ある議論を交わす事はできませんでしたが、オンラインの特性を生かして様々な質疑応答が行われました。

本学会では、16ブロック、約100題の演題について事前に資料の配信があり、当日はオンライン上で学術大会長の講演と各演題の質疑応答が実施されました。

当センターのリハビリテーション科からは窪田智史、田中大夢が演題発表をしたので簡単にご紹介します。

窪田智史「中学生における運動器疾患既往歴の有無と下肢柔軟性および姿勢の関連性」

中学3年生433名を対象に、質問票を用いて性別とスポーツ歴、運動器疾患の既往歴を聴取したのち、下肢柔軟性と姿勢を測定しました。その結果、学内外でスポーツ活動を行なっていた者は257名で、そのうち既往歴なし群が84(32.7%)、既往歴あり群が173(67.3%)存在しました。2群間で男女比に差はなく、測定した身体機能には、いずれも群間差は認められませんでした。本研究の結果から、「過去の運動器疾患によって下肢柔軟性または姿勢が変化し、将来的な運動器疾患発生のリスク増大につながる」という一般的な仮説は疑わしいことが示唆されました。

田中大夢「学童期野球選手の予防クリニックにおける指導の長期効果」

当センターで実施している野球クリニック内では、障害予防のために、身体機能改善・投球動作不良改善を目的としたエクササイズを指導しています。本研究では、複数回野球クリニックに参加経験のある選手の身体機能・投球動作分析から、野球クリニックでの指導の長期的な効果を検討いたしました。結果は、身体機能に関して差はなく、投球動作不良に関しては、ストライド期の軸足側の骨盤後傾が複数回群で有意に少なかったです。この結果から、本クリニックでの投球動作指導における長期的な効果が示唆されましたが、今後は身体機能の改善のため、指導法や実施頻度について検討する必要があります。

また,当科非常勤の永野康治からも発表を行いました.

永野康治「小中高年代における実施種目数および活動頻度と外傷・障害発生の関係」

スポーツ活動の健全な継続のために複数種目の実施(マルチスポーツ化)や適切な活動頻度が提唱されているが、本邦におけるその検証や報告はみられません。そこで、小中高年代における実施種目数および活動頻度と外傷・障害発生の関係を明らかとすることを目的とし、Webを通じて2030代の男女計1600人に調査を行いました。その結果、小中高年代の外傷・障害にはスポーツ活動頻度の高さが影響しており、小学生年代は複数種目の実施により実施頻度が高くなることに注意が必要であり、本邦におけるマルチスポーツの実施形態や種目別での影響を検討する必要性が示唆されました。

大会長の講演の中で印象に残っていた部分をご紹介します。「スポーツ復帰に向けたスポーツ理学療法の効果とは、局所症状の改善と身体不調からの回復にあり、パフォーマンス向上に必要な身体機能がさらに強化され、再発リスクが低減することにあります。これらが原状回復に近づき、100%元の状態に回復することがリハビリテーションでありますが、スポーツ選手・スポーツ活動家たちはケガや身体不調の原因を抱えているがゆえに発症しているため、我々理学療法士は身体機能や運動能力を元のレベル以上への、さらなる回復、超原状回復を目指す必要があります。」と仰っていました。

コロナによって様々な活動が制限されている現状ですが、収束した折に、理学療法士としてより成長できているよう、自分自身の"超原状回復"にも日々研鑽に励もうと思います。