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第5回

 スポーツトレーニングの基礎理論(1)
 「メッツ=運動の強度」

                            スポーツ医科学センター  事業連携担当部長 藤牧利昭(医学博士)

 厚生労働省は、「メタボ対策」を主な目的として「健康づくりのための運動指針2006」を策定しました。どんな運動がメタボ対策に有効かを検討した結果、「軽い運動では、ほとんど効果がない」という結論になり、「ある程度活発な身体活動を行う」ことを推奨することになりました。この身体活動には、運動・スポーツだけでなく、生活活動も含まれています。

 この時の「軽い」とか「ある程度活発」という「運動の強度(きつさ)」を示すモノサシ=尺度が、「メッツ=
METs; Metabolic Equivalents」です。ちなみに、「メタボ」は正式には「メタボリック症候群=Metabolic Syndrome」です。メッツは、椅子に座ってリラックスしている時(椅座位安静時)のカロリー消費量を「1」とした時、ある運動が、その何倍のカロリーを消費するかを示したものです。

 「歩行」では、椅子に座っている時の約
3倍、「早足歩き」では約4倍、「軽いジョギング」では約6倍のカロリーを消費しますので、それぞれ、3メッツ、4メッツ、6メッツといいます。スポーツだけでなく、散歩や庭仕事、重い荷物を運ぶなど、日常の生活活動についても、メッツで示すことができます。いくつかの例を厚生労働省が示しています(図)。そして、「軽い運動では、ほとんど効果がない」という時の「軽い」は「3メッツ」に相当します。日常の家事やデスクワーク、ゆったりした散歩などは、1.8から2.5メッツですから、「メタボ対策にあまり効果がない。」ということになります。女性登山家の田部井淳子さんは「私は特別なトレーニングはしません。日常の家事をテキパキやるのがトレーニングと思っています。」と語っています。トレーニングと思ってテキパキやれば、日常の家事でも3メッツを超えますから、田部井さんは、データが示される以前から、「効率的な体力維持」について、経験的に分かっていたのでしょう。

 軽い運動を長い時間行った時のカロリー量と、ややきつめの運動を行った時のカロリーを比較するには、メッツと運動時間を掛け合わせれば良いのです。
3メッツの運動を20分間行うのと、6メッツの運動を10分行うのは同じカロリーを消費することになります。図中の時間は、それを示しています。ここで厚生労働省は「エクササイズ」という新しい単位を提唱していますが、これについては、いずれ解説します。

 ところで、多くのスポーツや日常の生活活動の「メッツ」には、あまり個人差はありませんが、一部のスポーツでは、得意・不得意によって「メッツ」が変化します。特に、テニスやバドミントンなどを試合形式で行うと、相手との実力差によって、「メッツ」が大きく異なることがありますので、注意が必要です。

 以前広く使われていたエネルギー代謝率(
RMR)はメッツとよく似ています。RMRでは、1)基準となる尺度が、安静代謝ではなく、基礎代謝であること、 2)運動中に消費したカロリーから基礎代謝分を差し引いて、その値を基礎代謝で割って求める、という2点がメッツと異なっています。

 メッツの例
 

このコラムは「図解スポーツトレーニングの基礎理論」(横浜市スポーツ医科学センター編、西東社 2007年)を参考に 執筆しています。

 

 
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