〒222-0036  横浜市港北区小机町3302-5
 Tel 045-477-5050・5055  Fax 045-477-5052

第12回

  スポーツトレーニングの基礎理論(4)
 
「レジスタンストレーニング」

                                                        スポーツ医科学センター 事業連携担当部長 藤牧 利昭(医学博士)

 

 
筋肉に、繰り返し強い力を発揮させて、強く、太くすることを筋力トレーニングと言います。腕立て伏せやスクワットでは自分の体重分を持ち上げることになりますが、スポーツ選手では、自分の体重だけでは筋肉への負担が小さいため、バーベルを担いでスクワットを行います。バーベルなどの重量物(ウェイト)を使いますので、ウェイトトレーニングとも言われます。バーベルの他に、各種のマシンやチューブなどを使ったり、パートナーが動きに抵抗を加えたりする方法もあります。チューブのように重量を使わない場合もありますので、最近では、抵抗という意味のレジスタンス(resistance)を使って、レジスタンストレーニングという用語が使われることが多くなっています。 
 筋肉は、短くなる方向にしか力を発揮しません。例えば、膝を伸ばすときは、腿の前側の大腿四頭筋が収縮(短縮)することで、膝が伸びます。この時、腿の後ろ側のハムストリングスという筋肉群は、自ら伸びるのではなく、力を抜いていて、伸ばされています。膝を屈する時は、逆にハムストリングスが収縮して、大腿四頭筋は伸ばされます。
 これらの時に、バーベルなどのおもりや、マシンのプレート、チューブが抵抗になったり、パートナーが逆向きの力を加えたりすれば、動作の抵抗になり、筋肉は大きな力を発揮することになりますので、トレーニングになります。
 トレーニングで効果を上げるのに、もっとも大切なのは、「どのくらいの強さで行うか」ということです。楽なことの繰り返しでは効果が上がりませんし、きつ過ぎることをやっていてはケガを誘発します。「楽ではないが、きつ過ぎない」が有効です。一般的には、連続して10回くらい繰り返せる強さが目安です。例えば、腕立て伏せを10回やって少しきついくらいなら効果がありますが、30回も50回も出来るようなら軽過ぎます。逆に、45回しか出来ないなら、きつ過ぎて筋肉を傷める危険性があります。
 トレーニングを継続していくと、10回で少しきつかったのが、楽になってきます。これは、筋力が高まったため、今までの重さでは軽過ぎるようになったためです。この時、15回、20回と回数を増やしても、重さ自体が軽過ぎますので、効果が上がらなくなっていきます。バーベルやマシンを使っている場合は少し重くします。腕立て伏せなど自分の体重を使う場合は、背中におもりを載せるとか、手で押さえてもらうとか、足を高くするとかの工夫が有効です。
 ところで、筋肉を鍛える時、「強い力を出せる筋肉」にするのが一般的ですが、トレーニングの仕方によって「強い力を出せる筋肉」でなく「なかなか疲れない筋肉」にすることもできます。一つの筋肉が「強い力を出せる筋肉」であって、しかも「なかなか疲れない筋肉」というわけにはいきませんので、スポーツ選手では、どちらを目指してトレーニングするかはきわめて重要な問題です。
 



Q1
)筋力トレーニングとレジスタンストレーニングは同じ?

A1:
同じです。筋力を高めるのが目的なので筋力トレーニングといい、方法としては、筋肉が力を発揮する時に抵抗を与えて行うのでレジスタンストレーニングと言います。目的で言うか、方法で言うかの違いです。


Q2) ウェイトトレーニングとレジスタンストレーニングは同じ?

A2
:ウェイトトレーニングは、何種類かあるレジスタンストレーニングの一つです。バーベルなどの重量物(ウェイト)を用いて行うトレーニングをウェイトトレーニングと言いますが、チューブを引っ張ったり、二人組で、相手が動きに抵抗を加えたりする方法は、ウェイトとは言えません。歴史的に見ると1950年代に、バーベルを用いたトレーニングが行われたことが、スポーツ界に広く普及した原点であり、長い間広く行われている方法ですので、筋力トレーニングをウェイトトレーニングというのは誤りであるとも言えません。


Q3)「筋肉を伸ばす」というのはウソ?

A3:ある筋肉を意識的に伸ばすことはできません。反対側の筋肉を縮めることで、反対側の筋肉が「伸ばされる」のです。例えば、膝を伸ばす筋肉(大腿四頭筋)は、膝を曲げる(屈する)ことによって伸ばされますが、脳から大腿四頭筋に「伸ばす」指令を出すことは出来ません。この時、脳からは、大腿の裏側のハムストリングスに縮める指令が出されて、膝が曲がり()ます。


Q4)10回連続が目安」はなぜ?

A4:例えば、最大で80kgのバーベルを担いで、スクワットできる人がいたとします。70kgなら数回、60kgなら10回連続で出来そうです。筋肉はタイプT(遅筋)とタイプU(速筋)という2種類の筋線維からできていて、筋力アップには、タイプU線維を刺激することが重要とされています。多くの実験から、10回繰り返せるくらいの重さで行うとタイプU線維が刺激されて効果的であることがわかっています。十分な休息をとりながら80kg10回挙げることも可能ですが、60kg10回連続して行うのに比べ高い効果が得られるわけではありません。しかも、全力に近い力を発揮すると肉離れなどの危険性が高まります。30kgにすれば、何十回も出来そうですが、11回筋肉が発揮する力が小さく、タイプU線維が刺激されませんので、筋力アップの効果が小さくなります。ぎりぎり10回反復できるぐらいのきつさがちょうど良いのです。


Q5)60kgで、15回、20回とできるようになったら、どうすれば良い?

A5: 60kg10
回連続で少しきつかったのが、トレーニングを継続していくと筋力アップして、楽になり、15回、20回とできるようになります。この時、タイプU線維は余裕ができますので、刺激としては弱くなったことになり、効果が上がらなくなっていきます。回数を増やすのでなく、バーベルやマシンを使っている場合は、少し重くすれば良いのです。65kgとか、70kgに上げて、10回できついかどうかを再確認し、その重さで行います。


Q6)「腕立て50回」「腹筋100回」は意味がない?

A6:目的によりますが、「強い力を出せる筋肉」を作ろうと思うなら「腕立て50回」「腹筋100回」は効果的とは言えません。筋肉は大別して「強い力を出せる筋肉」と「なかなか疲れない筋肉」があり、野球、サッカー、柔道など多くのスポーツでは、「強い力を出せる筋肉」が求められます。「なかなか疲れない筋肉」を作ろうと思うなら「腕立て50回」「腹筋100回」は効果があります。
 筋肉にはタイプT(遅筋:赤筋)とタイプU(速筋:白筋)という2種類の筋線維があり、タイプT(遅筋)を鍛えると「なかなか疲れない筋肉」になり、タイプU(速筋)を鍛えると「強い力を出せる筋肉」になります。両方を鍛えることも可能ですが、1つの筋肉が、両方の特徴を高いレベルで兼ね備えることはできません。「二兎追うものは一兎をも得ず」で、スポーツ選手では、どちらかに絞った方が有利です。

 
(C) Yokohama Sports Association. All Rights Reserved.