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第21回

  「第2回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会、第7回アジア太平洋整形外科スポーツ医学会参加記」


                                  横浜市スポーツ医科学センター 整形診療科 川崎 渉
(理学療法士)

  

 

 『第2回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)』『第7回アジア太平洋整形外科スポーツ医学会(APOSSM)』が72日から4日まで沖縄コンベンションセンターで合同開催されました。整形外科に関する学会の中でも規模が大きく、多様なテーマについて演題発表、シンポジウム、講演が行われました。特に、関節鏡に関しては肩関節の障害、膝に関しては靱帯損傷や変形性膝関節症、スポーツに関してはバイオメカニクスをトピックとしていました。

 
JOSKASは日本膝関節学会と日本関節鏡学会が統合し、新たにスポーツ医学をテーマに加えた学会で、今回が2回目の開催となりました。また、2年に1度開催される国際学会であるAPOSSMがスポーツ医学という共通テーマのもとに合同で開催され、スポーツ医学における日本のアジア太平洋圏でのリーダー的役割を肌で感じることができました。しかし、APOSSMでの理事長講演で述べられたのは、日本を含めたアジアにおけるスポーツ医学を支える学会、組織などは、ヨーロッパ、北米に比べまだまだ発展途上であるということでした。スポーツ医学に携わる我々の役割の重要性を再認識し、当センターにおける研究成果を日本国内にとどまることなく世界に発信していく必要性を感じました。




 今回強く感じたのは、整形外科分野においてリハビリテーションや理学療法への関心がいっそう大きくなっていることでした。膝前十字靱帯損傷、投球障害肩といったスポーツ医学の中で注目される障害をテーマとしたシンポジウムにおいて、病態の解明や手術の方法論といった議論が行われる一方で、障害を生じた部位の診断、評価のみではなく、障害に至る過程にあたる身体の使い方などに議論が及ぶ場面が多くありました。

 膝前十字靱帯損傷については、「
ACL再建術の長期成績:再断裂防止に向けた展望」をテーマとしてパネルディスカッションが行われました。靱帯を再建する手術方法の違いについては、膝関節の回旋不安定性が評価項目となります。その結果としては解剖学的二重束再建術が優れているが、長期的に見て一重束再建術でも回旋不安定性が認められない例もあるということでした。ディスカッションにおいては、優れた術式の構築が重要であることは前提としながらも、術式や理学所見のみで長期成績、再断裂との関連を示すことには限界があるとの見解が示されました。無理のないリハビリ計画のなかで動作指導を含めた適切なリハビリテーションを行っていくことが再断裂の防止には重要であると結論づけられ、再建時の術式から再建後のリハビリテーションまでを一連の治療と捉える考えがよりいっそう深まっている印象でした。

 投球障害肩については、「投球障害肩の病態と治療」というテーマのもとシンポジウムが行われました。投球障害肩の病態・メカニズムは、肩関節機能の複雑性や投球時に肩関節に加わる負荷の多様性から統一した見解を得られていないのが現状です。病態の解明については単純
X線・MRIから超音波に至るまで様々な方法を用いた病変の診断が紹介されました。当センターは外来クリニックではありますがMRIや超音波を備えており、スポーツ障害の画像診断が即座に行える環境が整っています。病変の位置や程度に至るまでを正確に把握できれば、復帰にいたるまでのスケジュールの策定などが明確な基準のもとで行えます。肩関節に障害を抱えるスポーツ選手にはこのような環境を積極的に利用していただく有効性を再認識しました。また、障害メカニズムの特定については、肩関節の評価のみでは難しく、体幹機能、股関節機能の評価の必要性を研究的なデータや治療や予防の方法を例示しながら多くの講師が述べていました。3次元動作解析を用いた投球動作の分析では、体幹、骨盤周囲の機能が肩関節への力学的な負荷を増大させることが運動連鎖の観点から示されました。また、臨床的なメディカルチェックにおける体幹や股関節機能の評価方法が紹介され、体幹・股関節機能の低下が肩関節の障害に大きく影響することが示されていました。ディスカッションでは投球障害肩の治療においては肩関節の診断に留まることなく全身の機能を評価することが必要不可欠であると結論づけられました。

 当センターで実践しようとしているのは、障害に至るメカニズムを明らかとし治療のみならず予防も含めた対応をするために身体の機能を評価することですが、その重要性を参加する多くの医師が強く訴えている姿が印象的でした。近年は整形外科の学会においてもリハビリテーションの重要性を反映し理学療法士の演題発表や講演が増えていますが、今回もいくつかのシンポジウム,ランチョンセミナーの講師を理学療法士が務めていました。また、招待講演では理学療法の世界的権威である
David Magee(デイビット マギー)先生を講師に迎えてリハビリテーションの評価、治療の方法について講演をしていただき、参加者は職種の枠を越え真剣に聞き入っていました。

 今回、
JOSKASAPOSSMに参加して感じたのは、職種を越えたチーム医療の重要性でした。医師をはじめとし、我々理学療法士や他の医療従事者がチームとして治療していくことで、スポーツ選手、患者様をより安全に、より早く治すことが可能になると感じました。また、当センターで実施している治療が目指す方向性は、スポーツ医学の世界が目指している治療に相違ないと再認識できました。これからも日々研鑚を重ね、医師や他の職種と連携を取りながらスポーツ選手、患者様のためになる治療、研究を行っていきたいと思います。

 
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