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スポ医科コラム

 第31回 横浜マラソン大会活動報告

                   横浜市スポーツ医科学センター リハビリテーション科 玉置龍也(理学療法士)

横浜マラソン大会での新たな活動

 横浜マラソン大会は約1万人が参加する比較的規模の大きな市民参加型のマラソン大会です。山下公園前をスタートして、海岸近くの横浜港シンボルタワーや本牧市民公園を駆け抜ける横浜らしいコースが特徴です。大会の行われた12月4日は前日までの曇天模様とはうって変わって快晴となり、心地よい陽の光に恵まれた絶好のコンディションでした。
  本大会は、当センターを運営する公益財団法人横浜市体育協会が主催していることもあり、例年当センターからPRテントを出しています。これまでは事業PRや施設紹介が主でしたが、今年から新たに診療部 も参加することになり、実際の現場でこれまで得た経験や知見を市民の方に還元することを主たる目的に企画しました。また、直にランナーに接することで、臨床から得られるのとは違う現場の実情を知りたいという思いもありました。今回は私が企画から運営まで携わりましたので、大会での活動の様子を報告します。今回の企画内容は、パネル展示、チラシ配布、個別相談会、アンケート実施の4つでしたが、そのうちパネル内容のまとめと個別相談会の様子を紹介したいと思います。

パネル展示(1)「疲労骨折の早期発見」

 「ランニング障害」とは、ランニングを繰り返すことによって生じる疾患や痛みの総称で、同じ部位に過度の負担が加わることで生じる「オーバーユース(使い過ぎ)症候群」です。特に、負担が骨に加わり続けると疲労骨折に至る場合があります。ランニングだけでなく、歩行や階段など日常生活にも支障が出るため、このような状態になって病院を訪れる方は多くいます。ただし、発見が遅れれば遅れるほど回復に時間がかかりやすく、手術を要する場合もあるため、できるだけ早期に発見することが重要となります。
  疲労骨折は発生しやすい部位(好発部位)があり、足の甲やすねなどが代表的です。(図1)治りかけの時には骨に見た目の変化が生じるため、レントゲン検査でも発見できます。ただし、早期の疲労骨折は骨内部の腫れが中心で、レントゲン画像でははっきりと写らず見落とされる場合もあるので、MRI検査やCT検査など骨の内部まで詳細に捉える事が出来る検査が有効です。好発部位に痛みが続く場合や普段も痛みを感じる場合は、早めにこうした検査ができる医療機関を受診することをお勧めします。


        図1 疲労骨折の好発部位
       (展示パネルより一部抜粋)

パネル展示(2)「ランニング障害の発生メカニズムと対応」

 「ランニング障害」を防ぐには、何が体にとって負担となるかを知ることが重要です。ランニングに限らず、スポーツによるケガの多くは“力”によって生じます。「組織に加わる“力”>組織が耐えられる“力”」という状態で運動を行い、その差が大きければ1回でケガをし、小さくとも繰り返せば組織にダメージとなります。この“過度の力”が負担の正体なのです。そして、「組織に加わる“力”」を変化させる要因が、ランニング障害の原因でもあります。
  「組織に加わる力」が過度になる要因は、大きく分けて2つあります。環境や練習内容で外部から受ける力が変化することと、個人の特徴に由来して体の内部で力を負担する部位や組織が偏ることです。(図 2)簡単に言えば、「地面から受ける力」が大きく、「体での力の分散」がうまくいかなければランニング障害は発生しやすくなります。
  痛みや違和感などランニング障害の兆候があった場合は、路面を変える、距離を減らす、頻度を落とすなどして負担を減らすことが対応として一般的です。ただし、それでも症状が変わらない場合、もしくはいったん減っても 運動量を増やすと症状が再発する場合は、体に問題を抱えていると考えて対応していく必要があります。当センターの整形外科、リハビリテーション科ではこのような体の問題を細かくチェックし、負担の原因をきちんと特定していくことで治療を行っています。会場のパネル展示では、簡単なチェック項目とリハビリでも行っている運動の方法を紹介しました。多くの参加者の方に興味を持ってご覧いただけたと思います。(図
3)
     

 図2 ランニング障害の発生メカニズム   図3 実際のパネル展示の様子
 
  (展示パネルより一部抜粋)


新たな試み「個別相談会」

 今回の診療部企画での最大の試みは、この個別相談会でした。我々の施設における治療では、以下の点を重視しています。
 
  1)    問診により利用者の経過、現状をきちんと把握すること
 
  2)    種々の検査や評価により身体の状態、機能を精査すること
 
  3)    上記
2点に利用者のニーズを統合し、どのような提案ができるかを吟味すること
  今回の企画では、医師が不在であり診断は受けられませんし、場所や機材も限られた中で行いました。また、時間も大会を終えてからの約1時間半と限られており、一人約10分で10名の方に対応しました。その中でも、ニーズを把握し重要なポイントを押さえれば、問診を行うことはきちんとできますし、身体の機能を把握することも可能です。限られた範囲ではありますが、その中で得られた情報を専門的 立場から整理し、今後の提案をさせていただきました。結果として、参加された方は喜ばれたようで、たくさんの感謝の言葉を頂きました。(図 4


治療のあるべき姿〜本企画で見えたもの〜

 ランニング障害を抱え、当センターを訪れる方は多くいらっしゃいます。そういった方は当センターの情報や噂をどこかで耳にされ、ありがたいことに私たちの治療方針に期待を持っていらっしゃいます。すでに、当センターで相談するというご自分なりの方針を持っていることになります。
  ただ、今回相談を頂いた方は、問題が自分で対応できない範囲で、方針が見つからないことで困っている印象でした。私たちとしては、そうした方たちにまず足を運び、相談 する機会を設けて頂くことが重要になります。実際に、開始前では予約があまり埋まりませんでしたが、テント前で少しためらう方にも声をかけ、問診や評価を体験していただくと、良いと実感 されたということが多々ありました。参加者の方から頂いた、「やっていることは素晴らしいので、もっと宣伝した方がよい。宣伝すればもっと来る。」という言葉のとおり、今回のような企画も含め、地域の方にアピールする機会を設けるのは重要であると再認識しました。
  また、今回は医師が不在であったため、治療は行っていません。それでも参加者の方にある程度満足していただけたのは、症状やニーズに応じ方針をきちんと示したことが、自らの現状を把握し不安を解消することにつながったからだと思います。どうしても治療においては、利用者の方が「治る」ことを求めていらっしゃる以上、「治る」と言われる技術や結果が重視されがちです。ただし、客観的に見れば「治った」ことは利用者の方にとってあくまで通過点でしかありません。「治す」前に現状に至った原因をできる限り説明すること、「治る」までに必要な道筋や手段を明確に示すこと、「治った」後にどのような対処や対応が重要であるかを伝えること、これらがなければ利用者の方にとって「治った」という事実以外に残るものはないのです。
  実は、リハビリテーションや治療において非常に重要なのは専門的な方針の提案なのではないか、ということを今回あらためて感じました。ケガや体の不調という出来事を、逆に自らの体の状態と向き合い、生活や運動などについて見直せるきっかけにしていくこと、これこそが利用者の方にとって本当に有益な治療になるのだと思います。当センターでは今後も、利用者の方が納得できる治療を提供し、なおかつ「治った」後にも自らの体と向き合う方法をお伝えできるよう、日々精進し、活動して参ります。



     図4 個別相談会(左)とアンケート実施(右)の様子