第6回日本スポーツ理学療法学会学術大会 参加記
「第6回日本スポーツ理学療法学会学術大会」が12月7・8の2日間、帝京平成大学 池袋キャンパスで行われました。本学会は、スポーツに携わる理学療法士を中心に参加し、当科のスタッフも全員で参加しました。今回大会は「大いなるレガシーを求めて -2020に向けたスポーツ理学療法の新体系-」をテーマに、東京オリンピック・パラリンピックに向けた国際競技大会における医療体制、理学療法サービスの提供、暑熱対策に関する講演、ジュニアアスリートが抱える問題についての講演、下肢スポーツ外傷予防を取り上げたシンポジウム、約100題の演題発表等が行われました。
当センターのリハビリテーション科からは鈴川仁人、玉置龍也、中田周兵、菊川大輔、来住野麻美、青山真希子、窪田智史、宮崎哲哉が発表を行いましたので簡単にご紹介します。
鈴川仁人「国際競技大会におけるPTサービスの提供~東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて~」
国際競技大会の過去大会における本部メディカルルームや試合会場等のサポート例を提示し、トレーナー(理学療法士)としての関わりについて紹介しました。国際競技大会において日本代表選手団は各中央競技団体に所属するメディカルスタッフに加え、本部にもメディカルを設置し、ドクター及びトレーナーを派遣しています。各大会の選手団数や選手村の設置環境に応じて、メディカルの派遣構成が検討されています。
玉置龍也「国際競技大会におけるPTサービスの提供~東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて~」
過去大会の理学療法サービスの実績を踏まえ、東京大会で求められる理学療法サービスおよび理学療法士像について紹介しました。過去大会の理学療法サービスでは理学療法として運動療法、徒手療法、物理療法、テーピング等が提供され、理学療法以外の介入を行うセラピストとも連携し総合的な理学療法サービスを提供してきました。東京2020大会における理学療法士に求められるのは、スポーツ理学療法士としての専門的技能(語学力も含む)と多職種連携(医師、他領域の専門家、各国選手団の医師やセラピストとの連携)です。これらは国際大会における選手の要望に国内事情を踏まえて理学療法サービスを提供する上で必須となります。
中田周平「膝ACL損傷再受傷者の両脚・片脚着地動作時の衝撃緩衝能-術前及び競技復帰時期における検討-」
ACL損傷再受傷(いずれも健側ACL 損傷)と診断された2名を対象とし、課題動作drop vertical jump(DVJ)、片脚drop landing(SDL)を術前(DVJ)及び術後6カ月(DVJ,SDL)に実施し三次元動作解析システムを用いて測定しました。結果から片脚着地動作における衝撃緩衝能は競技復帰時期には十分回復していたと推測される一方で、両脚着地動作において健側へ依存した動作パターンが健側ACL損傷のリスクを高めることが示唆されました。さらに術前の影響が残存していることも示唆されました。
菊川大輔「ACL再建術後の再生半腱様筋腱の組織弾性と膝関節屈曲機能の関係」
半腱様筋(ST)腱を用いてACL再建術を行った術後4~14カ月の9名を対象とし、超音波剪断波エラストグラフィを用いて安静時及び伸長時の剪断弾性率を測定し膝屈曲筋機能との関係を検討しました。結果から再生腱の組織弾性が低い程、膝屈曲最大トルクの発揮角度は浅くなるという傾向を認めました。このことから深屈曲域で作用するSTの筋機能がより低下し、浅屈曲域でより作用する半膜様筋が膝屈曲機能を代償している可能性が考えられました。
来住野麻美「ジュニア期フィギュアスケートにおける障害発生状況」
2017年4月~2018年3月に150名を対象とし身体の不調や気になる点がある選手のサポートを実施しました。対応件数(延べ数)は男子42件、女子195件、平均年齢11.8歳であり、障害発生部位の全体数における割合は胸腰部・骨盤33%、股関節・大腿22%、足部・足関節17%、膝関節15%、肩関節5%、下腿4%でした。症状としては伸展型腰痛症(分離の疑いも含む)、慢性的な足部・足関節の疼痛、仙腸関節痛、内転筋炎・グローインペイン、シンスプリントの順に多かった。フィギュアスケート特有の大きな可動性を必要とすること、左右非対称な運動であること、若年から競技を始めるため負荷を支える力が不十分であることが結果として示されました。
青山真希子「中学生における腰痛の危険因子-大規模前向きコホート研究による検討-」
中学校2校1352名を対象とし質問票により一般情報(学年、性別、運動習慣等)を、月毎のアンケートにより腰痛有無を聴取し、腹臥位膝関節屈曲角度、active knee extension(AKE)角度、下腿前傾角度、胸椎後弯角を測定しました。結果は、学年が低く、腹臥位膝関節屈曲角度が小さいほど腰痛発症のリスクが高かったことから、中学1年生からの大腿四頭筋ストレッチングを中心とした腰痛予防介入の必要性が示されました。また、中学生年代の腰痛はスポーツ以外の要因も関与していることが考えられ、ハムストリングスの柔軟性低下や不良姿勢が必ずしも腰痛発症に関わるとはいえないことが示唆されました。
窪田智史「Risk factors for knee pain in junior high school students: a prospective cohort study of 1,352 students in a schoo-based setting」
中学生1352名を対象とし、質問票にて学年、性別、部活、怪我の既往歴を聴取し、膝関節屈曲角度、下腿前傾角度、active knee extension test、胸椎後弯角を測定しました。また、その後1年間月毎の膝痛の新たな発症について聴取しました。中学1年生から学校において膝痛に対する予防介入をする必要があると示されました。症候群と無症候群では大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋の柔軟性、胸椎後弯において違いがみられませんでした。このことから筋の柔軟性や姿勢は膝痛のリスクファクターになるとは言えないことが示唆されました。
宮崎哲哉「学童期野球選手に対する投球動作指導の効果-投球障害予防を目的とした野球教室における検討-」
学童期野球選手100名(平均年齢10.9歳)を対象に投球動作からstride相~arm cocking相での投球側肩関節の早期外旋、肘下がり、早期骨盤回旋、骨盤後傾がみられた「軸足不安定群」、arm cocking相でのステップ足の足関節内転/外転、in-step、out-stepが生じる「ステップ足位置異常群」、acceleration相~follow through相でのステップ足の膝関節伸展、下腿外傾/内傾を有する「ステップ足不安定群」の3群に分け、各群に対応した動作指導を行いました。その結果、全ての群において動作指導により投球動作の即時的な改善を認めました。
来年は東京2020オリンピック・パラリンピックが開催されます。
今回の学会を通してスポーツに関わる理学療法士としてあるべき姿を考え、実践し今後に繋げることのできる1年にしていきたいと思います。