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リハビリ室コラム/Rehabilitation Column

第8回日本スポーツ理学療法学会学術大会 参加記
横浜市スポーツ医科学センター リハビリテーション科 青山 真希子(理学療法士)

(令和3年12月)

第8回日本スポーツ理学療法学会学術大会が2021年12月11・12日に開催されました。今大会は当日のライブ配信での開催に加えて、演題に関しては録画された発表をオンデマンドで事前(事後)視聴することができました。事前に発表を視聴した上での当日の質疑応答であったため、内容をより深く理解することができ、これまでの学術大会とはまた異なる貴重な機会となりました。

テーマ『スポーツ理学療法の更なる発展に向けて』

2021年は東京2020大会が開催され、多くの理学療法士が様々な形で大会に関わりました。本学会の講演・シンポジウムでは大会に向けてどのような準備がなされ全国の理学療法士の先生方が実際にどのような活動をしてきたのかを知ることができました。当センターからは東京2020大会において日本代表選手団本部メディカル(トレーナー)として活動した鈴川仁人と、大会運営に従事した玉置龍也がシンポジウム『東京2020大会におけるPT(理学療法)サービスとレガシー』にて講演をいたしました。
また、新しい理学療法ガイドラインが今年発刊されたことに関する講演もあり、科学していくことの重要性を改めて感じました。そして、日本スポーツ理学療法学会が法人化したことで、科学的根拠を持った治療がより求められるようになるため、当センターとして研究の推進を目指していきたいと思います。

主題演題・一般演題にて4名の理学療法士が発表したので簡単にご紹介します。

来住野麻美「フィギュアスケート選手の障害経験に関する調査報告―疲労骨折に着目して」

フィギュアスケート選手に発症する障害について、重症度の高い疲労骨折に着目して今回調査を行いました。5,6,7級のフィギュアスケート選手35名から回答をいただきました。平均年齢は15.5歳(10~22歳)でした。アンケート回答時点までに14%の選手が足部の疲労骨折を経験しており、6%の選手が腰椎分離症を経験していました。疲労骨折経験は級ごとの比率に差はありませんでしたが、級が高くなると増加する傾向が見られました。より難しい技を獲得するための練習時間が増加している可能性や、競技歴も今後加味して検討していく必要性があると考えています。フィギュアスケート選手にとって予防介入の必要性は高く、発生の要因となり得るフィギュアスケート選手特有の身体機能などについても今後明らかにしていきたいと考えています。

中田周兵「膝前十字靭帯再建術後の競技復帰時期における再建側再受傷の発生に関連する因子の検討」

膝前十字靭帯損傷の再受傷の発生には、初回受傷と同様に様々な要因が関与しています。前十字靭帯再建術後に再建靭帯を再断裂した選手は再断裂しなかった選手と比較すると、術後6か月の時点での膝伸展・屈曲筋力と膝前方弛緩性に差はありませんでしたが、脛骨の後方傾斜角が大きく、グラフト成熟度合いが未熟である割合が高かったことが分かりました。今後は筋力だけではなく荷重動作時に関節の影響を併せて検討していく必要性が示唆されました。

松田匠生「Covid-19流行禍における学生スポーツ選手のメンタルヘルス調査」

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の世界的大流行禍で、国際プロサッカー選手会は女性選手の22%、男性選手の13%がうつ症状を有していると報告しました。この結果はCovid-19流行前と比較して倍増しており、スポーツ選手のメンタルヘルスケアの必要性が示されています。1回目の緊急事態宣言が解除され学校・部活動が再開した2020年6月時点で大学・高校サッカー部に所属していた選手にアンケート調査を実施し、433名中336名(77.6%)から回答をいただきました。うつ症状を評価するPHQ-9の結果では全体の25%の選手が軽度以上のうつ症状を示し、不安症状を評価するGAD-7の結果では全体の14%の選手が軽度~中等度の不安症状を示しました。うつ症状・不安症状を示す選手が一定数存在するため、状況を把握しながら選手サポートの活動をしていく必要性があることが示唆されました。

小林優理亜「ジュニア器械体操選手に対するOslo Sports Trauma Research Center質問紙使用の試み~器械体操選手特有の外傷・障害症状の収集にむけて~」

器械体操選手は外傷・障害がありながらも演技種目を変更したり種目を減らしたりしながら競技を継続する傾向があります。これまでの調査報告では練習や試合を休んだ際に外傷・障害が発生したと定義されることが多いため、競技を継続している器械体操の外傷・障害発生状況を十分に把握することは難しいです。そこで外傷・障害発生状況についての質問用紙をジュニア器械体操選手用に改編して調査を行いました。今回用いた質問紙では外傷・障害による選手のパフォーマンスや練習内容の変化による重症度の変化を捉えることができました。また、重症度が低くても同時に多部位に疼痛があるという器械体操選手の特徴がみられました。今後も調査を進めて器械体操選手の外傷・障害の実態を明らかにしていきたいと考えています。

振り返ると2021年は大きな変革を迎えた1年であり、本学会に参加してスポーツ理学療法としての役割や今後について深く考え直すことができました。